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しゃぶしゃぶ すきやき しののめ菜

 

Restaurant / 128.49㎡(38.86坪)

2021 / Ehime

​まだ学生だった頃、背伸びして食べに行った思い出の店が移転することになった。その話を聞いたとき、何としてもやりたいと思った。「しののめ菜」は誰もが知る店であり、移転先は素晴らしいつくりをしている。並々ならぬ思いで取り組んだが、予算も工期も厳しく、デザインが決まらないまま解体に入った元旦の現場風景は今でも鮮明に覚えている。

施主、職人、庭師、皆が協力してつくり上げることができた。設計の未熟さも目立つが、建物に流れた時間や現代感、季節の移ろいを感じられる、新しい世界を表現できたと思う。

建築を目指した学生時代の思いを全力で込めた。

70年前に建てられた建築を、老舗すき焼き・しゃぶしゃぶ店の移設先として再生させるプロジェクト。
テーマは「新旧が共存する新しい世界をつくる」
外観は補修・外構以外手を加えず、内部空間に現代と、一時を過ごす場所として非日常の華やかさを内包させようと考えた。
丁寧な仕事がなされた本館に簡素なつくりの増築棟が併設されており、構造上5つの個室とすることとなった。
特に老朽が激しく、意匠として現しにするつくりではないと判断した増築棟は構造補強後、収納スペースを「床」に変換させ、新しい主のあかしを表現する空間とした。
主人の趣向を表す「床」を空間に変化を与える必要な要素と考え、既存の構造柱に地元愛媛の五十崎和紙を巻き床柱に見立てることで新設し、外部・内部の新旧の空間が、移ろう自然と一体となって展開していく構成を目指した。
 
暖簾をくぐった先に見えるのは繊細な格子窓と、灯に照らされ淡く輝く五十崎和紙の襖、そして紅葉や露地が、はじめからあったかのように調和している。
坪庭には前店舗から共に育った南天を移植し、既存の格子戸、生まれ変わった増築棟が、過去―現在と対峙され、経てきた時間の質を感じられるよう展開していくことを意図した。
すべての部屋は庭に面し、季節や時間の変化が空間に豊かさをあたえてくれる。
 
ここで過ごした時間が記憶に残り、いつの日か思い出されることがあれば幸せである。





 

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